ワンルームの澱
5月30日。
空は、高い。
だが彼女にとって外の清清しさなど、友達の友達の友達の、そのまた友達ぐらい、どうでもいいことになって久しい。
いつものやり方で寝具をのらりくらり、しかし几帳面に押入れへと押し込み、一息つこうとどこか遠くを見やりながらコーヒーをすする。
いつも通り。
ネット通販で衝動買いしたコーヒーメーカーから滲み出る琥珀色の液体は、視界を覆うセロファンを取り除きはしなかった。
いつも通りだ。
相変わらずのワイドショーは、顔こそ違えど、誰もが同じような話題に同じようなコメントを吐いている。
くだらないとは思いながらも、新聞を読みながら聞き流すのがもはや習慣となっていて、それを変えるのも億劫だ。
今日の話題は失踪者のようで、キャスターが情報提供を呼びかけている。
ブラウン管の放つ無機質な光の中、彼女は目の奥に、幻覚めいた痛みを感じた。
知っている。
彼女の知性はその失踪者をとらえていないが、彼女の魂魄はどこかでとらえていたような気がするのだ。
「この人物を知っている」ことが、自らの礎になっているような感覚。
不快感とも快感ともいえない、限りなく密度の低い感情に身を任せ、彼女は深遠なる淵をめざし、沈んだ。
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ごめん。
ねむれなかったんです。
ごめん。