シズコさん / 佐野 洋子

シズコさん
ただ単に涙が出るというタイプの本ではなく、生温かい感じが、涙をひかせる。


著者ほど強烈な母との関係はなかなかないだろうが、誰しも思い当たる節があり、感情を揺さぶるのだけれど、現実的な残酷をつなげることでさっぱりとあっさりまとめてしまい、安っぽくなっていない。
プレーンな心のうちというものは、本来そういうものだろう。
いかにもリアルな人間の情動をあらわすことで、本音を率直に書き出していると思わせられる。
人間の本質を忌憚なくさらけ出しているという意味で、親しみが持てる。
言葉、文の運びは乱暴だけれども、人間味があり、なぜだか憎めないという人柄が透けているようだ。



中盤の繰り返しが目立つ章がもったいない。
月刊誌に連載されていた当時はそれでいいのだろうが、本にまとめる際にはコンパクトに、スマートにしてほしい。
なんだかかったるく感じてしまった。


呆けた母の言葉がとても印象的で、そこに人として生きる上での真理が見て取れるのではないか。


人はだれしも、バケツいっぱいのありがとうとごめんなさいをもって生まれてくる


何かのきっかけでふたをしてしまうことがあるかもしれないが、終いには使い切って死ぬのだ