1. イントロダクション

確率微分方程式―入門から応用まで


1.1 微分方程式の確率論的な例


問1. 単純な人口増加モデル
\frac {\large dN}{\large dt}=a(t)N(t),\qquad N(0)=N_0\,(constant)
N(t): 時刻tにおける人口
a(t): 時刻tにおける増加の相対速度


a(t)が、
a(t)=r(t)+"noise"\qquad r(t):\, nonrandom
という形でしかわからないとき、どうやって解くか?


一般的に微分方程式の係数にランダムネスを含むものを、確率微分方程式(Stochastic Differential Equation)という。
SDEの解はランダムネスを含むので、解の確率分布を知ることになる。



1.4 最適停止


問5. 最適停止問題
資源を持っていて売ろうとしている人を考える。
時刻tにおける資産の市場価格Xtは問1タイプのSDEをみたす。
\frac{\large dX_t}{\large dt}=rX_t+\alpha X_t\cdot\quad"noise"
r,α: 定数
ρ: 割引率(定数)


売り手は現在までの値動きXs(s<=0)を知っているが、系のノイズのためにいつ売るのが最適か、判断できないとする。
そこで求めるのは、長い期間で見たときにベストな結果を残す stopping strategy、つまりインフレを勘案し、期待される利益を最大化するものである。



1.5 確率制御


問6. 最適ポートフォリオ問題

二つの投資がある

(i) 株(リスク大)
時刻tにおける単位価格p1(t)は、問1タイプのSDEをみたす。
\frac{\large dp_1}{\large dt} \,= \, (\alpha \,+ \, \alpha \, \cdot \, "noise")p_1\\ \alpha > 0, \, \alpha \in \mathbb R \it, \, \alpha \, is a constant


(ii) 債券(リスク小)
時刻tにおける単位価格p2(t)は、指数的に増加する。
\frac{\large dp_2}{\large dt} \,= \, bp_2\\ b: \, const., \qquad 0 \,< \,b \,< \,a


時刻tにおいて、財産Xtのうち(i)に投資する割合をut、逆に(ii)に投資する割合を1-utとする。
効用関数U*1、t<=Tのもとで、最適なポートフォリオ(分配の割合)
u_t \in [0, \,1]
を求めるには、Tにおける財産Xt期待効用*2(expected utiity) U(XT(u)) が最大になるような投資の分配ut (0 <= t <= T) を求めればよい。
\underset{0 \leq u_t \leq 1}{max} = \big{ E[U(X_T^{(u)})] \big}



1.6 金融工学


問7. オプションの価格決定


問6.のケースで、t = 0 において、t = T に価格 K で一単位の株を買える権利(European call option)はどうですかと提案されたなら、果たしていくらなら喜んで応じるだろうか?
→ Black and Scholes option price formulaで示され、理論値がすでにある自由市場の均衡価格と非常によくマッチした*3

確率微分方程式―入門から応用まで

*1:横軸に財の消費量、縦軸に効用(財やサービスが消費者の欲望を満足させる度合い)を取ったグラフがよくみられる。上に凸な関数。

*2:ある行為をとるとき,起こりうる結果の一覧表は分かっているが,どの結果が起こるのか不確実な場合に,個々の結果が起こる確率とその結果がもたらす効用との積を求め,その積をすべての結果について合計した数値のこと。期待される効用の平均値を示す。

*3:Blackは1995年に亡くなったのでノーベル賞選考外・・・受賞は1997年。